脳と内臓の異常からくるいびき
慢性的ないびきをかく原因として、ここまでに三つを挙げました。「呼吸筋の老化」「肥満」
「鼻や咽頭などの構造異常」の三つです。しかし、この三つのうちどれにもあてはまらないのに、慢性的に人いびきをかく人がいます。つまり、お年寄りでもないし、太ってもいないし、鼻などの構造異常もない人のいびきです。
実は、直接の原因が目に見えないこうしたいびきこそ、「怖い」いびきなのです。なぜなら、脳や内臓の異常がいびきを引き起こしている場合が多いからです。
普通、いびきと脳や内臓のトラブルを結びつけて考える人はあまりいません。しかし、両者は密接な関係を持っています。
例えば、老人性痴呆症にかかった人が、慢性的ないびきをかき始める場合があります。しかし、一見まるで無関係に見える老人性痴呆症といびきが、どこでどうやって結びつくのでしょう?
そのメカニズムをここで考えてみましょう。
脳神経の異常
まず、脳神経に異常が発生すると、神経反射が鈍くなり、それがいびきを誘発します。反射が鈍った分だけ口蓋・咽頭・喉頭の粘膜がたるみ、呼吸の際の空気摩擦が大きくなって、いびきが発生するわけです。
また、脳神経の異常によって呼吸リズムが不規則になり、呼吸筋の活動が低下します。これもいびきの原因になります。
喉頭ガンや咽頭ガン
喉頭ガンや咽頭ガンなど、空気の通り道に発生したガンがいびきの原因となる場合もあります。これは、内臓疾患といびきの関係がわかりやすい例です。もっとも、いびきを誘発するほど大きなガンならすでに末期的症状であり、いびきより先にガンの症状がさままな形で現れているはずなので、いびき防止対策以前の問題です。
全身疾患がいびきを誘発
それ以外に、心臓病・腎臓病・糖尿病・高血圧などの全身疾患がいびきを誘発するケースがあります。病気が引き起こす身体の変調が、気道を狭くしたり、呼吸運動を阻害したりして、いびきに結びつくのです。
慢性的に大いびきをかく大の半分は、なんらかの内科的トラブルを抱えているといわれます。実際、私か直接診断した患者さんでも、いびきのひどい人で高血圧や心臓病を抱えているというケースは、圧倒的に多いのです。
いびきが病気を悪化させる悪循環に
さらに恐ろしいことに、いびきと内科的トラブルは、相互作用でだんだん悪化していくのです。それは、慢性的ないびきが、睡眠時無呼吸を引き起こしやすいからです。
睡眠時無呼吸が起きると、その都度、瞬問的な酸欠状態に陥ることになります。人間の身体がもっとも休息を求めている睡眠中に、酸欠状態がくり返されるのです。新鮮な酸素が身体に行き渡らなくなれば健康が損なわれるのは当然のこと。
特に悪影響が及びやすいのは、脳や循環器系、呼吸器系です。
つまり、高血圧や心臓病などによっていびきが引き起こされ、そのいびきがさらに病気を悪化させる、恐ろしい悪循環に陥ってしまうのです。
逆に、内臓疾患が改善に向かうと、それとともにいびきも治ってしまうことがよくあります。例えば、糖尿病患者が回復に向かうと、いびきをかかなくなったりするのです。